風間を初めて認識したのは、あいつが当時同じクラスだった女子との別れ話をしている最中の事だった。
バチッと大きな音が放課後の人気のない教室から聞こえて、思わず開いたドアから覗き込んでしまったことを、俺は若干後悔した。
「あーあ、派手にやってるな」
そう呟いたのは隣に居た日野だ。
夕焼け手前の日差しは教室を黄色く染めていて、風間の頬がじんわりとオレンジ色に染まって見えたのを覚えている。
「知っているのか?」
慌てて顔を廊下に戻し訊ねる。
「あぁ、風間って言う変人だよ、女子には滅法優しいが、男にはホラばっかりさ」
呆れたように言うが、日野の顔は笑っていた。
「何でそんな奴の事知ってるんだ?」
「学園のゴシップにも新聞部の情報網は行き渡ってるんだよ」
若干得意げだ。面倒な部だが、日野の情報網と人脈はそう言う所からも来ているのか、と納得する。
「全くほんと日野ってば酷い男だよね、気付いたなら仲介に入ってくれるのが友人だろう」
「!!」
突然の声に思わず振り返った。
「風間…」
「やぁ、頼むから新聞には載せないでくれたまえよ、良い男はスキャンダルも多いものだけど…って、どちらさんだい」
風間の目がじっとこちらを見る。
「綾小路。吹奏楽部ではトランペットの名手だよ」
「あぁ、黄色い楽器」
「金管楽器」
呟くと笑われた。
「そうそれ。へえ、今度僕のインタビューも載せてよ」
「お前さっき自分の載せるなって言ったじゃないか」
「それはそれ」
目の前で繰り広げられるやり取りに溜息をついて、その場から立ち去ろうとした。が、風間の目が許してくれない。
「ま、あまりマロンのない光景を見せたけど…初めまして」
そう言ってのばされた手を握ってしまったことを、俺は今でも微妙に後悔している。にっこり笑った男の頬はやっぱり赤かったが、妙にサマになっているのが笑えた、それが理由だ。
「…珍しいな」と呟いた日野の真意を知ったのは、ずっと後になってからだった。
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