季節外れの雪、というよりはみぞれに近いものが空から落ちてきている。
歩くたびにべちゃべちゃと靴の裏に重みを感じながら、綾小路は日野と下校していた。
日野がたまたま傘を持っていて、入らせてもらっているのだ。
学校よりは家にほど近い公園を通り過ぎる時、日野が口を開いた。
「よく、髪を結ってやった」
懐かしそうな口ぶりだ。
「妹の?」
「ああ」
今は髪が短いのだろうか、とふと思ったが、もしかしたらもっと違う理由があったかもしれない、と言葉を選ぶ。
「三つ編みとか?」
「そうそう。二つに結ってあげたり、ポニーテールにしてあげたり」
「器用そうだもんな、お前」
「でも、公園で遊んでると解けちゃってさ」
「ここの?」
「そう」
特にブランコでさ、飛ぶんだよ、と笑う。
「心配性なお兄ちゃんは大変だな」
――でも
自分も、昔髪を結ってあげたことがあったなと思って、綾小路は空を見上げた。透明なビニール傘越しに雪を見る。
――ゆき
「……お互い、思い出すのはそんなことばかりだろ」
日野が呟く。綾小路が何を考えているのかなど、お見通しだと言わんばかりに。
「………」
冷たい空気を口で吸い込み、肺いっぱい、心臓の周りを、冷やす。
「…綾小路、」
「日野、お前の家寄って行っていいか」
「……構わない」
「帰りたくない」
――ひとりで、あのこの記憶の残る場所を
なぞりながら、べちゃべちゃと帰りたくない。
「その口調で言われてもなぁ。…いいぞ」
どうせ俺も一人だ、と言って笑う日野の、目に写る自分はさぞ自棄なのだろうな、と綾小路は目を細めた。
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