「おいローデ…何をしているかと思ったら」
「…ラジオ位自由に聞かせて頂いても良いでしょう」
「構わんが、演奏し始めたのかと思ったじゃないか」
「残念でしたね。感心したんですよ。ラジオでピアノ演奏を流すのは、中々良い心がけではありませんか」
「実用的かどうか、意見は割れたようだがな」
「戦争報道ばかりが役目じゃないでしょう。こんな世の中です」
「褒められると変な感じがするが。いよいよバッハについて認める気になったか」
「それとこれとは話が別ですよ。……あぁ、楽章が変わりますね」
「……聞いたことがあるな」
「ふふ」
「? 何がおかしい」
「いえ、脳みそまで筋肉にはなっていないようで安心しました」
「俺を馬鹿にして楽しいか」
「多少は。……貴方、覚えていないかもしれませんが。オルゴール、あったでしょう?」
「ああ、あれか」
「懐かしいですね。貴方、あれ滅法好きだったんですよ」
「そうだったか?あのメリーゴーランドのだろう」
「そうです。でもギルベルトが壊してしまった」
「ああ…」
「あんまり貴方が悲しい顔をするから、彼も罪悪感を覚えたんでしょうね。…言ったんですよ、私に」
「何を」
「…弾いてくれって。同じ曲を」
「………」
「…覚えてます?」
「……忘れるわけないだろう」
「おや、本当ですか」
「……夢かと思ってた時もあったがな」
「…そうですね、今、この状況を思えば、あの日々は……まるで、幻覚のようで」
「…ロディ」
「失礼。ラジオを聞いていたら気が変わりました。一曲弾かせて頂けますか」
「…あ、ああ。構わないが」
「では、貴方は訓練とやらに精々注力して下さい」
「!?」
「その方が、気が散らなくていいでしょう」
「…お互いに?」
「よく解ってるではありませんか」
「……勝手にしろ!」
「……本当に、幻覚だったらよかったのですが」
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